どういうものでしょう。私は、このごろはまた何が何やら、わからなくなってしまいましたが、以前はまあ、こんな具合いに考えていたのです。私に窮屈な思いをさせないというのは、つまり、私にみじんも色気を感じさせないという事なのだから、きっとその女のひとの精神が気高いのだろう、話をしてこだわりを感じさせる女には、まさか、好くの好かれるのというはっきりした気持などはないでしょうが、自身でも気のつかない、あてもないぼんやりしたお色気があって、それが話相手にからまって、へんに相手を窮屈にさせてしまうのではないだろうか、とまあ、そんなふうに考えていたのでした。要するに私は、話をして落ちつかない気持を起させる女は、みだら、とは言えないまでも、多少のお色気のある女として感服せず、そうして、平気で話合える女を、心の正しい人として尊敬していました。
 ところで、その圭吾の嫁は、ほかのひとにはどうかわかりませんが、私には、これまで一度も、全く少しのこだわりも感じさせない女だったのです。いまはもう、地主も小作人もあったものではありませんが、もともとこの嫁は、私の家の代々の小作人の娘で、小さい頃からちょっとこう思案深そ
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