うな顔つきをしていました。百姓には珍らしく、からだつきがほっそりして、色が白く、おとなになったら顔がちょっとしゃくれて来て、悪く言えば般若面《はんにゃめん》に似たところもありましたが、しかし、なかなかの美人という町の評判で、口数も少く、よく働き、それに何よりも、私に全然れいのこだわりを感じさせぬところが気にいって、私は親戚の圭吾にもらってやったのでした。
どんなに親しい間柄とは言っても、私とその嫁とは他人なのだし、私だって、まだよぼよぼの老人というわけではなし、まして相手は若い美人で、しかも亭主が出征中に、夜おそくのこのこ訪ねて行って、そうして二人きりで炉傍で話をするというのは、普通ならば、あまりおだやかな事でも無いのでしょうが、しかし私は、あの嫁に対してだけは、ちっともうしろめたいものを感ぜず、そうしてそれは、その女の人格が高潔なせいであるとばかり解していたのですから、なに、一向に平気で、悠々《ゆうゆう》と話込みました。
「実はの、きょうはお前に大事なお願いがあって来たのだ。」
「はあ。」と言って、嫁は縫い物の手を休め、ぼんやり私の顔を見守ります。
「いや、針仕事をしながらでいい、
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