いうのは案外なもので、ちょっと綺麗《きれい》な女とふたり切りで、よもやまの話などをしているうちに、何か妙な気がして来る事があるのです。あなたは、どうでしょう。いや、私は普通よりも少し色気が強いのかも知れません。実は、私はこんな薄汚い親爺《おやじ》になり下がっていながら、たいていの女と平気で話が出来ないたちなんです。まさか私は、その話相手の女に、惚《ほ》れるの惚れられるの、そんな馬鹿な事は考えませんが、どうも何だか心にこだわりが出て来るのです。窮屈なんです。どうしても、男同士で話合うように、さっぱりとはまいりません。自分の胸の中のどこかに、もやもやと濁っているものがあるような気がしていけません。あれは、やはり、私の色気のせいだと思うのですが、どんなものでしょうか。しかしまた、私にそんなこだわりを全然、感じさせない女のひとも、たまにはあるのです。八十歳の婆とか、五歳の娘とか、それは問題になりませんが、女盛りの年頃で、しかもなかなかの美人でありながら、ちっとも私に窮屈な思いをさせず、私もからりとした非常に楽な気持で対坐している事が出来る、そんな女のひとも、たまにはあるのです。あれはいったい、
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