すので、ちょっと気まずくても、ありのままを言う事にしているのです。そのために、思わぬ難儀が振りかかって来た事もありますが、しかし、駈引きして成功しても永続きはしないような気がするのです。
その時も、私は、下手な小細工《こざいく》をしたって仕様が無いと思って、「まっすぐに、ここさ来た」と本当の事を言ったのですが、嫁は別にそれを気にとめる様子も無く、あたらしい薪《まき》を二本、炉にくべて、また縫い物を続けます。
へんな事をおたずねするようですが、あなたと私とは小学校の同級生ですから、同じとしの三十七、いやもう二、三週間すると昭和二十一年になって、三十八。ところでどうです、このとしになっても、やはり、色気はあるでしょう、いや、冗談でなく、私はいつか誰かに聞いてみたいと思っていた事なのです。まさか、私は、このとおり頭が禿《は》げて、子供が四人もあって、手の皮なんかもこんなに厚くなって、ひびだらけでささくれ立って、こんな手で女の柔い着物などにさわったら、手の皮がひっかかっていけないでしょう、このようなていたらくで、愛だの恋だのを囁《ささや》く勇気は流石《さすが》にありませんが、しかし、色気と
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