何の罰もかからないように取りはからう事が出来ます。何せこの大雪で、交通機関がめちゃ滅茶なのですから、私はあれが入隊におくれた理由を、そこは何とかうまく報告できるつもりです。脱走兵を出したとあっては、この町全体の不名誉です。この町の名誉のために、一つ御苦労でもたのむ、というような事でした。
 私は署長と一緒に吹雪の中を、あれの家へ出掛けました。かなり遠いのです。どうも人間の一生には、いろいろな事があると思いましたよ。私のような兵役免除の丁種《ていしゅ》が、帝国軍人の妻たる者の心掛けを説こうというのは、どう考えたって少し無理ですよ。
 あれの家の前で署長と無言で別れ、私はあれの家の土間にはいって行きました。あなたがこれまで東京に永くいらっしゃったと言っても、やはりこの土地の生れなのですから、このへんの農家の構造はご存じでしょう。土間へはいると、左手は馬小屋で、右手は居間と台所兼用の板敷の部屋で大きい炉《ろ》なんかあって、まあ、圭吾の家もだいたいあれ式なのです。
 嫁はまだ起きていて、炉傍《ろばた》で縫い物をしていました。
「ほう、感心だのう。おれのうちの女房などは、晩げのめし食うとすぐに赤
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