た。髮がうすくて、眉毛はないのと同じであつた。腕と脚が氣品よく細長かつた。生後二箇月目には、體重が五瓩、身長が五十八糎ほどになつて、ふつうの子より發育がよかつた。
 生れて百二十日目に大がかりな誕生祝ひをした。

       紙の鶴

「おれは君とちがつて、どうやらおめでたいやうである。おれは處女でない妻をめとつて、三年間、その事實を知らずにすごした。こんなことは口に出すべきではないかも知れぬ。いまは幸福さうに編物へ熱中してゐる妻に對しても、むざんである。また、世の中のたくさんの夫婦に對しても、いやがらせとなるであらう。しかし、おれは口に出す。君のとりすました顏を、なぐりつけてやりたいからだ。
 おれは、ヴアレリイもプルウストも讀まぬ。おほかた、おれは文學を知らぬのであらう。知らぬでもよい。おれは別なもつとほんたうのものを見つめてゐる。人間を。人間といふ謂はば市場の蒼蠅を。それゆゑおれにとつては、作家こそすべてである。作品は無である。
 どういふ傑作でも、作家以上ではない。作家を飛躍し超越した作品といふものは、讀者の眩惑である。君は、いやな顏をするであらう。讀者にインスピレエションを
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