、そのゴム毬みたいにふつくりふくらんだ桃いろの脚にはうぶ毛が薄く生えそろひ、足頸が小さすぎる白足袋のためにきつくしめつけられて、くびれてゐた。右手には青玉の珠數を持ち、左手には朱いろの表紙の細長い本を持つてゐた。
 僕は、ああ妹だなと思つたので、おはひりと言つた。尼は僕の部屋へはひり、靜かにうしろの襖をしめ、木綿の固いころもにかさかさと音を立てさせながら僕の枕元まで歩いて來て、それから、ちやんと坐つた。僕は蒲團の中へもぐりこみ、仰向けに寢たままで尼の顏をまじまじと眺めた。だしぬけに恐怖が襲つた。息がとまつて、眼さきがまつくろになつた。
「よく似てゐるが、あなたは妹ぢやないのですね。」はじめから僕には妹などなかつたのだな、とそのときはじめて氣がついた。「あなたは、誰ですか。」
 尼は答へた。
「私はうちを間違へたやうです。仕方がありません。同じやうなものですものね。」
 恐怖がすこしづつ去つていつた。僕は尼の手を見てゐた。爪が二分ほども伸びて、指の節は黒くしなびてゐた。
「あなたの手はどうしてそんなに汚いのです。かうして寢ながら見てゐると、あなたの喉や何かはひどくきれいなのに。」
 尼は
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