ると変に責任、持ちたがるのかしら。どうして皆、わかり切つたお説教したがるのかしら。あなたは、さちよが、いままで、どんなに苦しい生活を、くぐり抜け、切り抜けして生きて来たか、ご存じ? さちよだつて、もう、おとなよ。子供ぢやない。ほつて置いたつて大丈夫。あたしだつて、はじめは、あの子に腹が立つた。女優なんて、とんでもない、と思つてゐた。やはり、あなたと同じやうに、国へかへつたはうが、一ばん無事だと思つてゐた。だけど、それは、あたしの間違ひ。だつて、さちよが国へかへつて、都合のよいのは、それは、あたしたちのはうよ。あの子は、ちつとも仕合せでない。あなただつてさうよ。やつぱり、どこか、ずるいのよ。けちな、けちな、我利我利《がりがり》が、気持のどこかに、ちやんと在るのよ。あなたが勝手に責任感じて、さうして、むしやくしやして、お苦しくて、こんどは誰か、遠いところに居る人に、その責任、肩がはりさせて、自身すずしい顔したいお心なのよ。さうなのよ。」言ひながら、それでも気弱く、高須の片手をそつと握つて、顔色をうかがひ、「ごめんなさいね。うち、失礼なことばかり言つて。」さつと素早く、ウヰスキイあふつて、「
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