びだから、薙刀に負けちやふ。」
ふふ、と数枝は笑つた。数枝の気嫌が直つたらしいので、さちよは嬉しく、
「ねえ。あたしの言ふこと、もすこしだまつて聞いてゐて呉れない? ご参考までに。」
「いふことが、いちいち、きざだな。歴史的氏の悪影響です。」数枝は、気をよくしてゐた。
「あたしは、ね、歴史的さんでも、助七でも、それから、ほかのひとでも、みんな好きよ。わるい人なんて、あたしは、見たことがない。お母さんでも、お父さんでも、みんな、やさしくいいひとだつた。伯父さんでも、伯母さんでも、ずいぶん偉いわ。とても、頭があがらない。はじめから、さうなのよ。あたし、ひとりが、劣つてゐるの。そんなに生れつき劣つてゐる子が、みんなに温く愛されて、ひとり、幸福にふとつてゐるなんて、あたし、もうそんなだつたら、死んだはうがいい。あたし、お役に立ちたいの。なんでもいい、人の役に立つて、死にたい。男のひとに、立派なよそほひをさせて、行く路々に薔薇の花を、いいえ、すみれくらゐの小さい貧しい花でもがまんするわ、一ぱいに敷いてやつて、その上を堂々と歩かせてみたい。さうして、その男のひとは、それをちつとも恩に着ない。これ
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