「男にしなだれかかって仕合せにしてもらおうと思っているのが、そもそも間違いなんです。虫が、よすぎるわよ。男には、別に、男の仕事というものがあるのでございますから、その一生の事業を尊敬しなければいけません。わかりまして?」
数枝は、不愉快で、だまっていた。
さちよは調子に乗って、
「女ひとりの仕合せのために、男の人を利用するなんて、もったいないわ。女だって、弱いけれど、男は、もっと弱いのよ。やっとのところで踏みとどまって、どうにか努力をつづけているのよ。あたしには、そう思われて仕方がない。そんなところに、女のひとが、どさんと重い[#「重い」は底本では「思い」]からだを寄りかからせたら、どんな男の人だって、当惑するわ。気の毒よ。」
数枝は、呆れて、蛮声を発した。
「白虎隊は、ちがうね。」さちよの祖父が白虎隊のひとりだったことを数枝は、さちよから聞かされて知っていた。
「そんなんじゃないのよ。」さちよは、暗闇の中で、とてもやさしく微笑《ほほえ》んだ。「あたし、巴御前《ともえごぜん》じゃない。薙刀《なぎなた》もって奮戦するなんて、いやなこった。」
「似合うよ。」
「だめ。あたし、ちびだか
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