ただ阿呆《あほう》のように、しっかりビイルを飲んで、そうして長押《なげし》の写真を見て、無礼極まる質問を発して、そうして意気揚々と引上げて来た私の日本一の間抜けた姿を思い、頬が赤くなり、耳が赤くなり、胃腑《いふ》まで赤くなるような気持であった。
「一ばん大事のことじゃないか。どうしてそれを知らせてくれなかったんだ。僕は大恥をかいたよ。」
「どうだって、いいさ。」
「よかないよ。大事なことだ。」あからさまに憤怒の口調になっていた。喧嘩《けんか》になってもいいと思った。「山田君も山田君だ。そんな大事なことを一言も僕に教えてくれなかったというのは不親切だ。僕は、こんどの世話はごめんこうむる。僕はもう小坂さんの家へは顔出しできない。君がきょう行くんだったら、ひとりで行けよ。僕はもう、いやだ。」
ひとは、恥ずかしくて身の置きどころの無くなった思いの時には、こんな無茶な怒りかたをするものである。
私たちは、おそい朝ごはんを、気まずい思いで食べた。とにかく私は、きょうは小坂氏の家へ行かぬつもりだ。恥ずかしくて、行けたものでない。縁談がぶちこわれたってかまわぬ。勝手にしろ、という八つ当りの気持だ
前へ
次へ
全33ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
太宰 治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング