黄金風景
太宰治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)樫《かし》の木

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)銃|担《にな》っている者もあり
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海の岸辺に緑なす樫《かし》の木、その樫の木に黄金の細き鎖のむすばれて   ―プウシキン―
[#ここで字下げ終わり]

 私は子供のときには、余り質《たち》のいい方ではなかった。女中をいじめた。私は、のろくさいことは嫌《きら》いで、それゆえ、のろくさい女中を殊《こと》にもいじめた。お慶は、のろくさい女中である。林檎《りんご》の皮をむかせても、むきながら何を考えているのか、二度も三度も手を休めて、おい、とその度毎にきびしく声を掛けてやらないと、片手に林檎、片手にナイフを持ったまま、いつまでも、ぼんやりしているのだ。足りないのではないか、と思われた。台所で、何もせずに、ただのっそりつっ立っている姿を、私はよく見かけたものであるが、子供心にも、うすみっともなく、妙に疳《かん》にさわって、おい、お慶、日は短いのだぞ、などと大人びた、いま思っても脊筋《せすじ》の寒くなるような非道の言葉を
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