れだけ書くのにも、ずゐぶん考へたし、なんどもなんども下書しました。あなたがよい初夢とよい初日出をごらんになつて、もつともつと生きることに自信をお持ちなさるやう祈つてゐるもののあることを、お知らせしたくて一生懸命に書きました。こんなことを、だしぬけに男のひとに書いてやるのは、たしなみなくて、わるいことだと思ひます。でも私、恥かしいことは、なんにも書きませんでした。私、わざと私の名前を書かないの。あなたはいまにきつと私をお忘れになつてしまふだらうと思ひます。お忘れになつてもかまはないの。おや、忘れてゐました。新年おめでたうございます。元旦。

(風の便りはここで終らぬ。)

 あなたは私をおだましなさいました。あなたは私に、第二、第三の風の便りをも書かせると約束して置きながら、たつぷり葉書二枚ぶんのをかしな賀状の文句を書かせたきりで、私を死なせてしまふおつもりらしゆうございます。れいのご深遠なご吟味をまたおはじめになつたのでございませうか。私、こんなになるだらうといふことは、はじめから知つてゐました。でも私、ひよつとするとあの靈感とやらがあらはれて、どうやら私を生かしきることができるのでは
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