オン。ゴリキイよりもレニン。」やつぱり少し文學臭い。この邊の文章には、文學のブの字もなくしなければいけないのだ。まあ、いいやうになるだらう。あまり考へすごすと、また書けなくなる。つまり、この主人公は、銅像になりたく思つてゐるのである。このポイントさへはづさないやうにして書いたなら、しくじることはあるまい。それから、この主人公が牢屋で受けとる通信であるが、これは長い長い便りにするのだ。われに策あり。たとへ絶望の底にゐる人でも、それを讀みさへすれば、もういちど陣營をたて直さうといふ氣が起らずにはすまぬ。しかも、これは女文字で書かれた手紙だ。「ああ。樣といふ字のこの不器用なくづしかたに、彼は見覺えがあつたのである。五年前の賀状を思ひ出したのであつた。」
第三の通信は、かうしよう。これは葉書でも手紙でもない、まつたく異樣な風の便りにしよう。通信文のおれの腕前は、もう見せてあるから、なにか目さきの變つたものにするのだ。銅像になりそこねた主人公は、やがて平凡な結婚をして、サラリイマンになるのであるが、これは、うちの勤人の生活をそのまま書いてやらう。主人公が家庭に倦怠を感じはじめてゐる矢先。冬の日
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