果になりました。けれども、博士は、あきらめません。いつかは、あいつを、ぶんなぐるつもりで居ります。そいつの、いやな、だみ声を、たったいまラジオで聞いて、博士は、不愉快でたまりませぬ。ビイルを、がぶ、がぶ、飲みました。もともと博士は、お酒には、あまり強いほうでは、ございません。たちまち酩酊《めいてい》いたしました。辻占売《つじうらうり》の女の子が、ビヤホールにはいって来ました。博士は、これ、これ、と小さい声で、やさしく呼んで、おまえ、としはいくつだい? 十三か。そうか。すると、もう五年、いや、四年、いや三年たてば、およめに行けますよ。いいかね。十三に三を足せば、いくつだ。え? などと、数学博士も、酔うと、いくらかいやらしくなります。少し、しつこく女の子を、からかいすぎたので、とうとう博士は、女の子の辻占を買わなければならない仕儀にたちいたりました。博士は、もともと迷信を信じません。けれども今夜は、先刻のラジオのせいもあり、気が弱っているところもございましたので、ふいとその辻占で、自分の研究、運命の行く末をためしてみたくなりました。人は、生活に破れかけて来ると、どうしても何かの予言に、すが
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