手紙だ。
「なんだい、これは。」僕は顔をしかめて尋ねた。
「ひばりの意地わる。」マア坊は笑いながら僕を睨《にら》んだ。「なぜ、よしきた、と言わないの。がんばれよ、と言われて、ようしきた、と答えない人は、病気がわるくなっているのよ。」
 僕は、いやな気がした。いよいよ、むくれて、
「それどころじゃないんだ。頭を洗っているんじゃないか。なんだい、この手紙は。」
「つくしから来たのよ。おしまいの所に、歌が書いてあるでしょう? その意味といて。」
 石鹸が眼に流れ込まないように用心しながら、両方の眼を渋くあけて、その便箋のおしまいの所の歌を読んでみた。
  相見ずて日《け》長くなりぬ此《この》頃は如何《いか》に好去《さき》くやいぶかし吾妹《わぎも》
 つくしも、しゃれてると思った。
「こんなの、わからんかねえ。これは、万葉集からでも取った歌にちがいない。つくしの作った歌じゃないぜ。」やいたわけではないが、ちょっと、けちをつけてやった。
「どんな意味?」低く言って、いやにぴったり寄り添って来た。
「うるさいな。僕は頭を洗ってるんだ。後で教えてあげるから、手紙はその辺に置いといて、僕の手拭いを持っ
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