な恐るべき手紙をものするとは、全く、神か魔かと疑ってみたくなるくらいだ。とにかく、なんとも、ひどいんだ。
 それでは、きょうは一つその偉大なる書翰に就いてちょっと書いてみましょう。
 けさは、道場で秋の大掃除がありました。掃除はお昼前にあらかたすんだけれど、午後も日課はお休みになって、そうして理髪屋が二人出張して来て、塾生《じゅくせい》の散髪日という事になったのです。五時|頃《ごろ》、僕は散髪をすまして、洗面所で坊主頭《ぼうずあたま》を洗っていると、誰《だれ》か、すっと傍《そば》へ寄って来て、
「ひばり、やっとるか。」
 マア坊である。
「やっとる、やっとる。」僕は、石鹸《せっけん》を頭にぬたくりながら、頗《すこぶ》るいい加減の返辞をした。どうも、このごろ、このきまりきった挨拶《あいさつ》の受け答えが、めんどうくさくて、うるさくって、たまらないのである。
「がんばれよ。」
「おい、その辺に僕の手拭《てぬぐ》いが無いか。」僕は、がんばれよの呼びかけには答えず、眼をつぶったまま、マア坊のほうに両手を出した。
 右手にふわりと便箋《びんせん》のようなものが載せられた。片目を細くあけて見ると、
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