ところの選手である。切に自重を望む、と言いましたがね。おれはあの時、涙が出たね。男子、義を見てせざれば勇なきなり、というわけのものだ。勇に大勇あり小勇あり、ともいうべきわけのところだ。だから、人間、智仁勇、この三つが大事というわけになるんだ。女にもてるなんて、問題になるわけのものじゃ決してないんだ。」ほとんど支離滅裂である。それでも、かっぽれは顔を青くしてさらに声を張り上げ、「だから、それだから、衛生が大事だというわけの事に自然になって行くんだ。常に衛生、火の用心というのは、だから、そこのところを言ってると思うんだ。いやしくも一個の人間を豚のしっぽと較《くら》べられるわけのものじゃ絶対に無いんだ。」
「やめろ、やめろ。」と越後獅子《えちごじし》が仲裁にはいった。越後獅子は、それまでベッドの上に黙って寝ころんでいたのだが、その時むっくり起きてベッドから降り、かっぽれのうしろから肩を叩いて、やめろやめろ、とちょっと威厳のある口調で言ったのである。
 かっぽれは、くるりと越後獅子のほうに向き直って、越後獅子に抱きついた。そうして越後獅子の懐《ふところ》に顔を押し込むようにして、うわっ、うわっ
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