くもおれを、豚のしっぽみたいに扱いましたね。おれが豚のしっぽなら、お前さんは、とかげのしっぽだ。一視同仁というものだ。おれには学はねえが、それでも衛生を尊ぶ事だけは、知っているのだ。人間、衛生を知らなけれゃ、犬畜生と同じわけのものなんだ。」
 何が何だか、さっぱりわけのわからない口説《くぜつ》になって来た。

     2

 固パンは一向それに取合わず、両手を頭のうしろに組んで、仰向にベッドの上に寝ころがった。度胸のある男のように見えた。かっぽれは、ベッドの上にあぐらを掻《か》いて、からだを前後左右にゆすぶり、腕まくりするやら、自分の膝《ひざ》を自分のこぶしでぽんぽん叩《たた》くやら、しきりにやきもきして、
「え、おい、聞いているのですか、そこな大学生。まさか柔道を使やしねえだろうな。大学生には時たまあれを使うやつがあるから恐れいる。あいつぁ、ごめんだぜ。いいかい、はっきり言って置くけど、この道場は、柔道の道場でもなければ、また、色男修行の道場でもないんですぜ。場長の清盛《きよもり》も、こないだの講話で言っていた。諸君は選手である。結核の必ず全治するという証拠を、日本全国に向って示す
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