。」と、低く口早に言って、僕の前を通り、部屋から出て行った。
僕の口は思わずとがった。なあんだ。大きいなりをして、だらしがねえ。なぜだか、その時、そんな気がして、すこぶる気にいらなかった。組長じゃないか。人を叱って気がもめる、もないもんだ。僕は、にがにがしく思った。竹さんも、もっと、しっかりしなければいかんと思った。けれども、三杯目のごはんをよそって、こんどは僕のほうで顔を赤くしてしまった。おひつのごはんが、ばかに多いのだ。いつもは、軽く三杯よそうと、ちょうど無くなる筈なのに、きょうは三杯よそっても、まだたっぷり一杯ぶん、その小さいおひつの底に残ってあるのだ。ちょっと閉口だった。僕は、このような種類の親切は好かない。親切の形式が、またおいしいとも感じない。おいしくないごはんは、血にも肉にもなりはしない。なんにもならん。むだな事だ。越後獅子の口真似《くちまね》をして言うならば、「竹さんの母親は、おそろしく旧式のひとに違いない。」
僕はいつものように軽く三杯たべただけで、あとの贔屓《ひいき》の一杯ぶんは、そのままおひつに残した。しばらくして竹さんが、何事も無かったような澄ました顔をして
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