の抜けた言葉しか出ないものなんだ。僕にも経験がある。
3
「いやらし!」と竹さんが言ったね。それから首を四十五度以上も横に傾けて、君に向って、「いらっしゃいまし。」と笑いながら言ったら君は、顔を真赤にして、ぴょこんとお辞儀をしたね。それから君は不平そうに小声で、
「なんだ、すごい美人じゃないか。馬鹿《ばか》にしてやがる。君はまた、ただ大きくて堂々とした立派なひとだと手紙に書いてたもんだから、僕は安心してほめてたんだが、なあんだ、スゴチンじゃないか。」
「予想と違ったかね。」
「違った、違った、大違い。堂々として立派なんて言うから、馬みたいなひとかと思っていたら、なあんだ、あれは、すらりとしているとでも形容しなくちゃいけない。色だって、そんなに黒くないじゃないか。あんな美人は、僕はいやだ。危険だ。」などと早口で言っているうちに竹さんは、軽く会釈《えしゃく》して旧館のほうに行ってしまいそうになったので、君はあわてて、
「ちょっと、君、ちょっと竹さんを呼びとめてくれ給《たま》え。お土産があるんだ。」とポケットをさぐり、れいの小型辞典を取り出した。
「竹さん!」と僕が大声で言って
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