物を配すべきだと思うんだ。」
「そうだ。報酬ばかり考えているような人間では駄目だ。」
「そうとも、そうとも。功利性のごまかしで、うまく行く筈はないんだ。おとなの駈引《かけひ》きは、もうたくさんだ。」
「全くさ。表面のハッタリなんて古いよ。見え透いてるじゃないか。」
 君も、僕と同じくらいに議論は下手のようである。僕たちは、なんだか、同じ様な事ばかり繰り返し繰り返し言っていたようだったぜ。
 そうして、そのうちに僕たちのその下手な議論もだんだん途切れがちになって来て、「単なる」とか「要するに」とか「とにかく」とか「結局」とかいう言葉ばかりたくさん飛び出て、だれてしまって、その時、下の玄関の前の芝生にひょいと竹さんが現われた。僕は思わず、
「竹さん!」と呼んだ。君は同時にズボンのバンドをしめ上げたね。あれは、どういう意味なんだい? 竹さんは右手を額にあてて、バルコニイを見上げ、
「何や?」と言って笑ったが、あの時の竹さんの姿態は悪くなかったじゃないか。
「竹さんを、とても好きだと言ってる人が、いまここに来ているんだ。」
「よせ、よせ。」と君は言った。実際、あんな時には、よせ、よせ、という間
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