など、ちっとも気にしていないらしい落ちついた晴朗の態度にも感心したが、それよりも、あのいたわりの声の響きの気品に打たれた。御大家のお内儀が、庭番のじいやに、縁先から声をかけるみたいな、いかにも、のんびりしたゆとりのある調子なのである。非常に育ちのいいものを感じさせた。いつか越後も言っていたが、竹さんのお母さんは、よっぽど偉い人だったのに違いない。竹さんにまかせたら、この厚化粧の一件も、きっとあざやかに軽く解決せられるだろうと、僕はさらに大いに安心した。
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そうして僕のその信頼は、僕の予期以上に素晴らしく報いられた。四時の自然の時間に、突如、廊下の拡声機から、
「そのまま、そのままの位置で、気楽にお聞きねがいます。」という事務員の声が聞えて、「かねて問題になって居《お》りました助手さんのお化粧に就いて、ただいま助手さんたちから自発的に今日限りこれを改める由《よし》を申し出てまいりました。」
わあっ、という歓声が隣りの「白鳥の間」から聞えて来た。臨時放送は、さらに続いて、
「きょうの夕食後に、それぞれお化粧を洗い落し、おそくとも今晩七時半の摩擦の時には、アメリカの人たち
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