出しといたの。」
「それだけか。」
「それだけよ。」
「なあんだ。」僕は、機嫌を直した。「それだけの事だったのか。」
「ええ、そうよ。それなのに、こんなお手紙を寄こすんだもの、いやで、いやで、身悶《みもだ》えしちゃったわ。」
「何も身悶えしなくたって、いいじゃないか。君は、本当は、つくしを好きなんだろう。」
「好きだわ。」
「なあんだ。」僕は、また面白くなくなって来た。「馬鹿にしていやがる。つまらない。奥さんのある人を好きになったって、仕様が無いじゃないか。あれは仲のよさそうな夫婦だったぜ。」
「だって、ひばりを好きになっても仕様が無いでしょう?」
「何を言ってやがる。話が違うよ。」僕はいよいよ不機嫌になった。「君は不真面目だ。僕は何も君に、好きになってもらおうと思ってやしないよ。」
「ばか、ばか。ひばりは、なんにも知らないのよ。なんにも知らないくせに、ひばりなんかは、」と言いかけて、くるりとうしろを向いてヒイと泣き出した。そうして、それこそ身悶えして、
「あっちへ、行って!」と強く言った。
4
僕は出処進退に窮した。口をとがらして洗面所をぶらぶら歩いているうちに、何だ
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