をふくらめて、樣樣のプランを言ひだすときの潤んだ眼だけが、僕の生き甲斐だつた。この眼を見るために僕はけふまで生きて來たのだと思つた。僕は、ほんたうの愛情といふものを君に教はつて、はじめて知つたやうな氣がしてゐる。君は透明だ、純粹だ。おまけに、――美少年だ! 僕は君の瞳のなかにフレキシビリテイの極致を見たやうな氣がする。さうだ。知性の井戸の底を覗いたのは、僕でもない太宰でもない佐竹でもない、君だ! 意外にも君であつた。――ちえつ! 僕はなぜかうべらべらしやべつてしまうのだらう。輕薄。狂躁。ほんたうの愛情といふものは死ぬまで默つてゐるものだ。菊のやつが僕にさう教へたことがある。君、ビツグ・ニユウス。どうしやうもない。菊が君に惚れてゐるぞ。佐野次郎さんには、死んでも言ふものか。死ぬほど好きなひとだもの。そんな逆説めいたことを口走つて、サイダアを一瓶、頭から僕にぶつかけて、きやつきやつと氣ちがひみたいに笑つた。ところで君は、誰をいちばん好きなんだ。太宰を好きか? え。佐竹か? まさかねえ。さうだらう? 僕、――」
「僕は、」私はぶちまけてしまはうと思つた。「誰もみんなきらひです。菊ちやんだけを
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