かつた。私は馬場とふたり、本郷の薄暗いおでんやで酒を呑んだ。はじめは、ふたりながら死んだやうに默つて呑んでゐたのであるが、二時間くらゐたつてから、馬場はそろそろしやべりはじめた。
「佐竹が太宰を抱き込んだにちがひないのさ。下宿のまへまでふたり一緒に來たのだ。それくらゐのことは、やる男だ。君、僕は知つてゐるよ。佐竹は君に何かこつそり相談したことがありはしないか。」
「あります。」私は馬場に酌をした。なんとかしていたはりたかつた。
「佐竹は僕から君をとらうとしたのだ。別に理由はない。あいつは、へんな復讐心を持つてゐる。僕よりえらい。いや、僕にはよく判らない。――いや、ひよつとしたら、なんでもない俗な男なのかも知れん。さうだ、あんなのが世間から人並の男と言はれるのだらう。だが、もういい。雜誌をよしてさばさばしたよ。今夜は僕、枕を高くしてのうのうと寢るぞ! それに、君、僕はちかく勘當されるかも知れないのだよ。一朝めざむれば、わが身はよるべなき乞食であつた。雜誌なんて、はじめから、やる氣はなかつたのさ。君を好きだから、君を離したくなかつたから、海賊なんぞ持ちだしたまでのことだ。君が海賊の空想に胸
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