ら、そのにやにや笑ひだけはよしにしませう。」
「それぢや、君に聞くが、君はなんだつて僕を呼んだのだ。」
「おめえはいつでも呼べば必ず來るのかね?」
「まあ、さうだ。さうしなければいけないと自分に言ひ聞かせてあるのです。」
「人間のなりはひの義務。それが第一。さうですね?」
「ご勝手に。」
「おや、あなたは妙な言葉を體得してゐますね。ふてくされ。ああ、ごめんだ。あなたと仲間になるなんて! とかう言ひ切るとあなたのはうぢや、すぐもうこつちをポンチにしてゐるのだからな。かなはんよ。」
「それは、君だつて僕だつてはじめからポンチなのだ。ポンチにするのでもなければ、ポンチになるのでもない。」
「私は在る。おほきいふぐりをぶらさげて、さあ、この一物をどうして呉れる。そんな感じだ。困りましたね。」
「言ひすぎかも知れないけれど、君の言葉はひどくしどろもどろの感じです。どうかしたのですか? ――なんだか、君たちは藝術家の傳記だけを知つてゐて、藝術家の仕事をまるつきり知つてゐないやうな氣がします。」
「それは非難ですか? それともあなたの研究發表ですか? 答案だらうか。僕に採點しろといふのですか?」
「
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