つたよ。僕の學校の先輩から小説の素晴らしく巧い男だといつて紹介されたのだが、――何も宿命だ。仲間にいれてやることにした。君、太宰つてのは、おそろしくいやな奴だぞ。さうだ。まさしく、いや、な奴だ。嫌惡の情だ。僕はあんなふうの男とは肉體的に相容れないものがあるやうだ。頭は丸坊主。しかも君、意味深げな丸坊主だ。惡い趣味だよ。さうだ、さうだ。あいつはからだのぐるりを趣味でかざつてゐるのだ。小説家つてのは、皆あんな工合ひのものかねえ。思索や學究や情熱なぞをどこに置き忘れて來たのか。まるつきりの、根つからの戲作者だ。蒼黒くでらでらした大きい油顏で、鼻が、――君レニエの小説で僕はあんな鼻を讀んだことがあるぞ。危險きはまる鼻。危機一髮、團子鼻に墮さうとするのを鼻のわきの深い皺がそれを助けた。まつたくねえ。レニエはうまいことを言ふ。眉毛は太く短くまつ黒で、おどおどした兩の小さい眼を被ひかくすほどもじやもじや繁茂してゐやがる。額はあくまでもせまく皺が横に二筋はつきりきざまれてゐて、もう、なつちやゐない。首がふとく、襟脚はいやに鈍重な感じで、顎の下に赤い吹出物の跡を三つも僕は見つけた。僕の目算では、身丈は五
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