用し活用し、モトをとらなければ、ウソだ。しかし、あの怪力、あの大食い、あの強慾。
あたたかになり、さまざまの花が咲きはじめたが、田島ひとりは、頗《すこぶ》る憂鬱《ゆううつ》。あの大失敗の夜から、四、五日経ち、眼鏡も新調し、頬のはれも引いてから、彼は、とにかくキヌ子のアパートに電話をかけた。ひとつ、思想戦に訴えて見ようと考えたのである。
「もし、もし。田島ですがね、こないだは、酔っぱらいすぎて、あはははは。」
「女がひとりでいるとね、いろんな事があるわ。気にしてやしません。」
「いや、僕もあれからいろいろ深く考えましたがね、結局、ですね、僕が女たちと別れて、小さい家を買って、田舎《いなか》から妻子を呼び寄せ、幸福な家庭をつくる、という事ですね、これは、道徳上、悪い事でしょうか。」
「あなたの言う事、何だか、わけがわからないけど、男のひとは誰でも、お金が、うんとたまると、そんなケチくさい事を考えるようになるらしいわ。」
「それが、だから、悪い事でしょうか。」
「けっこうな事じゃないの。どうも、よっぽどあなたは、ためたな?」
「お金の事ばかり言ってないで、……道徳のね、つまり、思想上のね、
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