グッド・バイ
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)相合傘《あいあいがさ》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)前|以《もっ》て女に手渡し、
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)(未完)[#行末より2字上げ]
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変 心 (一)
文壇の、或《あ》る老大家が亡《な》くなって、その告別式の終り頃から、雨が降りはじめた。早春の雨である。
その帰り、二人の男が相合傘《あいあいがさ》で歩いている。いずれも、その逝去《せいきょ》した老大家には、お義理一ぺん、話題は、女に就《つ》いての、極《きわ》めて不きんしんな事。紋服の初老の大男は、文士。それよりずっと若いロイド眼鏡《めがね》、縞《しま》ズボンの好男子は、編集者。
「あいつも、」と文士は言う。「女が好きだったらしいな。お前も、そろそろ年貢《ねんぐ》のおさめ時じゃねえのか。やつれたぜ。」
「全部、やめるつもりでいるんです。」
その編集者は、顔を赤くして答える。
この文士、ひどく露骨で、下品な口をきくので、その好男子の編集者はかねがね敬遠
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