ロマネスク
太宰治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)神梛木《かなぎ》村
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)百|米《メートル》くらいの高さであった。
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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仙術太郎
むかし津軽の国、神梛木《かなぎ》村に鍬形惣助《くわがたそうすけ》という庄屋がいた。四十九歳で、はじめて一子を得た。男の子であった。太郎と名づけた。生れるとすぐ大きいあくびをした。惣助はそのあくびの大きすぎるのを気に病み、祝辞を述べにやって来る親戚《しんせき》の者たちへ肩身のせまい思いをした。惣助の懸念《けねん》はそろそろと的中しはじめた。太郎は母者人《ははじゃひと》の乳房にもみずからすすんでしゃぶりつくようなことはなく、母者人のふところの中にいて口をたいぎそうにあけたまま乳房の口への接触をいつまででも待っていた。張子《はりこ》の虎をあてがわれてもそれをいじくりまわすことはなく、ゆらゆら動く虎の頭を退屈そうに眺めているだけであった。朝、眼をさましてからもあわてて寝床から這《
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