がありませぬ。ラプンツェルが突然、泣き出したので、頗《すこぶ》る当惑して、
「君は、まだ、疲れているんだ。」と勝手な判断を下し、「おなかも、すいているんだ。とにかく食事の仕度をさせよう。」と低く呟《つぶや》きながら、あたふたと部屋を出て行きました。
やがて五人の侍女がやって来て、ラプンツェルを再び香水の風呂にいれ、こんどは前の着物よりもっと重い、真紅の着物を着せました。顔と手に、薄く化粧を施しました。少し短い金髪をも上手にたばねてくれました。真珠の頸飾《くびかざり》をゆったり掛けて、ラプンツェルがすっくと立ち上った時には、五人の侍女がそろって、深い溜息をもらしました。こんなに気高く美しい姫をいままで見た事も無し、また、これからも此の世で見る事は無いだろうと思いました。
ラプンツェルは、食事の部屋に通されました。そこには王さまと、王妃と王子の三人が、晴れやかに笑って立っていました。
「おう綺麗じゃ。」王さまは両手をひろげてラプンツェルを迎えました。
「ほんとうに。」と王妃も満足げに首肯《うなず》きました。王さまも王妃も、慈悲深く、少しも高ぶる事の無い、とても優しい人でした。
ラプン
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