ツェルは、少し淋しそうに微笑《ほほえ》んで挨拶しました。
「お坐り。ここへお坐り。」王子は、すぐにラプンツェルの手を執って食卓につかせ、自分もその隣りにぴったりくっついて坐りました。可笑《おか》しいくらいに得意な顔でした。
王さまも王妃も軽く笑いながら着席し、やがてなごやかな食事がはじめられたのでしたが、ラプンツェルひとりは、ただ、まごついて居りました。つぎつぎと食卓に運ばれて来るお料理を、どうして食べたらいいのやら、まるで見当が附かないのです。いちいち隣りの王子のほうを盗み見て、こっそりその手つきを真似て、どうやら口に入れる事が出来ても、青虫の五臓のサラダや蛆《うじ》のつくだ煮などの婆さんのお料理ばかり食べつけているラプンツェルには、その王さまの最上級の御馳走も、何だか変な味で胸が悪くなるばかりでありました。鶏卵の料理だけは流石《さすが》においしいと思いましたが、でも、やっぱり森の烏の卵ほどには、おいしくないと思いました。
食卓の話題は豊富でした。王子は、四年前の恐怖を語り、また此度の冒険を誇り、王さまはその一語一語に感動し、深く首肯いてその度毎に祝盃を傾けるので、ついには、ひど
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