胸がふさがって、たまらなくなり、声を放って泣きました。お婆さんから離れて、他人ばかりのお城に居るのを淋しく思ったのではありません。それは、まえから覚悟して来た事でございます。それに、あの婆さんは決していい婆さんで無いし、また、たとい佳いお婆さんであっても、娘というものは、好きなひとさえ傍にいて下さったら、肉親全部と離れたとて、ちっとも淋しがらず、まるで平気なものでございます。ラプンツェルの泣いたのは、淋しかったからではありませぬ。それはきっと恥ずかしく、くやしかったからでありましょう。お城へ夢中で逃げて来て、こんな上等の着物を着せられ、こんな柔かい蒲団に寝かされ、前後不覚に眠ってしまって、さて醒めて落ちついて考えてみると、あたしは、こんな身分じゃ無かった、あたしは卑しい魔法使いの娘だったという事が、はっきり判って、それでいたたまらない気持になり、恥ずかしいばかりか、ひどい屈辱さえ感ぜられ、帰ります等と唐突なことを言い出したのではないでしょうか。ラプンツェルには、やっぱり小さい頃の、勝気な片意地の性質が、まだ少し残っているようであります。苦労を知らない王子には、そんな事の判ろう筈《はず》
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