に美しい娘こそ四年前、王子を救ってくれた恩人であるという事もやがて判明いたしましたので、城中の喜びも二倍になったわけでした。ラプンツェルは香水の風呂にいれられ、美しい軽いドレスを着せられ、それから、全身が埋ってしまうほど厚く、ふんわりした蒲団《ふとん》に寝かされ、寝息も立てぬくらいの深い眠りに落ちました。ずいぶん永いこと眠り、やがて熟し切った無花果《いちじく》が自然にぽたりと枝から離れて落ちるように、眠り足りてぽっかり眼を醒《さ》ましましたが、枕もとには、正装し、すっかり元気を恢復《かいふく》した王子が笑って立って居りました。ラプンツェルは、ひどく恥ずかしく思いました。
「あたし、帰ります。あたしの着物は、どこ?」と少し起きかけて、言いました。
「ばかだなあ。」王子は、のんびりした声で、「着物は、君が着てるじゃないか。」
「いいえ、あたしが塔で着ていた着物よ。かえして頂戴。あれは、お婆さんが一等いい布ばかり寄せ集めて縫って下さった着物なのよ。」
「ばかだなあ。」王子は再び、のんびりした声で言いました。「もう、淋しくなったのかい?」
ラプンツェルは、思わずこっくり首肯《うなず》き、急に
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