く結ばれたところで、たいていの映画は、the end になるようでありますが、私たちの知りたいのは、さて、それからどんな生活をはじめたかという一事であります。人生は、決して興奮の舞踏の連続ではありません。白々しく興覚《きょうざ》めの宿命の中に寝起きしているばかりであります。私たちの王子と、ラプンツェルも、お互い子供の時にちらと顔を見合せただけで、離れ難い愛着を感じ、たちまちわかれて共に片時も忘れられず、苦労の末に、再び成人の姿で相逢う事が出来たのですが、この物語は決してこれだけでは終りませぬ。お知らせしなければならぬ事は、むしろその後の生活に在るのです。王子とラプンツェルは、手を握り合って魔の森から遁《のが》れ、広い荒野を飲まず食わず終始無言で夜ひる歩いて、やっとお城にたどり着く事が出来たものの、さて、それからが大変です。
王子も、ラプンツェルも、死ぬほど疲れていましたが、ゆっくり休んでいるひまもありませんでした。王さまも、王妃も、また家来の衆も、ひとしく王子の無事を喜び矢継早《やつぎばや》に、此《こ》の度の冒険に就《つ》いて質問を集中し、王子の背後に頸垂《うなだ》れて立っている異様に美しい娘こそ四年前、王子を救ってくれた恩人であるという事もやがて判明いたしましたので、城中の喜びも二倍になったわけでした。ラプンツェルは香水の風呂にいれられ、美しい軽いドレスを着せられ、それから、全身が埋ってしまうほど厚く、ふんわりした蒲団《ふとん》に寝かされ、寝息も立てぬくらいの深い眠りに落ちました。ずいぶん永いこと眠り、やがて熟し切った無花果《いちじく》が自然にぽたりと枝から離れて落ちるように、眠り足りてぽっかり眼を醒《さ》ましましたが、枕もとには、正装し、すっかり元気を恢復《かいふく》した王子が笑って立って居りました。ラプンツェルは、ひどく恥ずかしく思いました。
「あたし、帰ります。あたしの着物は、どこ?」と少し起きかけて、言いました。
「ばかだなあ。」王子は、のんびりした声で、「着物は、君が着てるじゃないか。」
「いいえ、あたしが塔で着ていた着物よ。かえして頂戴。あれは、お婆さんが一等いい布ばかり寄せ集めて縫って下さった着物なのよ。」
「ばかだなあ。」王子は再び、のんびりした声で言いました。「もう、淋しくなったのかい?」
ラプンツェルは、思わずこっくり首肯《うなず》き、急に
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