かないことを言い、とりかえしのつかないことを行うべきでもあろうと、いま、白砂青松の地にいて、籐椅子《とういす》にねそべっているわが身を抓《つね》っている始末である。住み難き世を人一倍に痛感しまことに受難の子とも呼ぶにふさわしい、佐藤春夫、井伏|鱒二《ますじ》、中谷孝雄、いまさら出家|遁世《とんせい》もかなわず、なお都の塵中にもがき喘《あえ》いでいる姿を思うと、――いやこれは対岸の火事どころの話でない。
おのれの作品のよしあしをひとにたずねることに就いて
自分の作品のよしあしは自分が最もよく知っている。千に一つでもおのれによしと許した作品があったならば、さいわいこれに過ぎたるはないのである。おのおの、よくその胸に聞きたまえ。
書簡集
おや? あなたは、あなたの創作集よりも、書簡集のほうを気にして居られる。――作家は悄然《しょうぜん》とうなだれて答えた。ええ、わたくしは今まで、ずいぶんたくさんの愚劣な手紙を、ほうぼうへ撒《ま》きちらして来ましたから。(深い溜息《ためいき》をついて、)大作家にはなれますまい。
これは笑い話ではない。私は不思議でならないのだ。
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