う事もありました。あなたは、以前は、なんにも知らなかったのね。ごめんなさい。私だって、なんにも、ものを知りませんけれども、自分の言葉だけは、持っているつもりなのに、あなたは、全然、無口か、でもないと、人の言った事ばかりを口真似《くちまね》しているだけなんですもの。それなのに、あなたは不思議に成功なさいました。そのとしの二科の画は、新聞社から賞さえもらって、その新聞には、何だか恥ずかしくて言えないような最大級の讃辞が並べられて居りました。孤高、清貧、思索、憂愁、祈り、シャヴァンヌ、その他いろいろございました。あなたは、あとでお客様とその新聞の記事に就いてお話なされ、割合、当っていたようだね、等と平気でおっしゃって居られましたが、まあ何という事を、おっしゃるのでしょう。私たちは清貧ではございません。貯金帳を、ごらんにいれましょうか。あなたは、この家に引越して来てからは、まるで人が変ったように、お金の事を口になさるようになりました。お客様に画をたのまれると、あなたは、必ずお値段の事を悪びれもせずに、言い出します。はっきりさせて置いたほうが、後でいざこざが起らなくて、お互に気持がいいからね、な
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