に変えて、父の書斎に掛けているのだそうです。池袋の大姉さんも、しっかりおやり等と、お手紙を下さるようになりました。お客様も、ずいぶん多くなりました。応接間が、お客様で一ぱいになる事もありました。そんな時、あなたの陽気な笑い声が、お台所まで聞えて来ました。あなたは、ほんとに、お喋りになりました。以前あなたは、あんなに無口だったので、私は、ああ、このおかたは、何もかもわかっていながら、何でも皆つまらないから、[#「、」は底本では「、、」]こんなに、いつでも黙って居られるのだ、とばかり思い込んで居りましたが、そうでもないらしいのね。あなたは、お客様の前で、とてもつまらない事を、おっしゃって居られます。前の日に、お客様から伺ったばかりの画の論を、そっくりそのまま御自分の意見のように鹿爪《しかつめ》らしく述べていたり、また、私が小説を読んで感じた事をあなたに、ちょっと申し上げると、あなたはその翌日、すましてお客様に、モオパスサンだって、やはり信仰には、おびえていたんだね、なんて私の愚論をそのままお聞かせしているものですから、私はお茶を持って応接間にはいりかけて、あまり恥ずかしくて立ちすくんでしま
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