、あなたと一緒に遊びたいのだ。竜宮へ行つて遊びたいのだ。あの国には、うるさい批評なんか無いのだ。みんな、のんびり暮してゐるよ。だから、遊ぶにはもつて来いのところなんだ。私は陸にもかうして上つて来れるし、また海の底へも、もぐつて行けるから、両方の暮しを比較して眺める事が出来るのだが、どうも、陸上の生活は騒がしい。お互ひ批評が多すぎるよ。陸上生活の会話の全部が、人の悪口か、でなければ自分の広告だ。うんざりするよ。私もちよいちよいかうして陸に上つて来たお蔭で、陸上生活に少しかぶれて、それこそ聞いたふうの批評なんかを口にするやうになつて、どうもこれはとんでもない悪影響を受けたものだと思ひながらも、この批評癖にも、やめられぬ味がありまして、批評の無い竜宮城の暮しにもちよつと退屈を感ずるやうになつたのです。どうも、悪い癖を覚えたものです。文明病の一種ですかね。いまでは私は、自分が海の魚だか陸の虫だか、わからなくなりましたよ。たとへばあの、鳥だか獣だかわからぬ蝙蝠のやうなものですね。悲しき性《さが》になりました。まあ海底の異端者とでもいつたやうなところですかね。だんだん故郷の竜宮城にも居にくくなりま
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