なはぬなどと考へてゐるんだから、げつそりしますよ。それぢや私だつて言ひますが、あなたが私を助けてくれたのは、私が亀で、さうして、いぢめてゐる相手は子供だつたからでせう。亀と子供ぢやあ、その間にはひつて仲裁しても、あとくされがありませんからね。それに、子供たちには、五文のお金でも大金ですからね。しかし、まあ、五文とは値切つたものだ。私は、も少し出すかと思つた。あなたのケチには、呆れましたよ。私のからだの値段が、たつた五文かと思つたら、私は情無かつたね。それにしてもあの時、相手が亀と子供だつたから、あなたは五文でも出して仲裁したんだ。まあ、気まぐれだね。しかし、あの時の相手が亀と子供でなく、まあ、たとへば荒くれた漁師が病気の乞食をいぢめてゐたのだつたら、あなたは五文はおろか、一文だつて出さず、いや、ただ顔をしかめて急ぎ足で通り過ぎたに違ひないんだ。あなたたちは、人生の切実の姿を見せつけられるのを、とても、いやがるからね。それこそ御自身の高級な宿命に、糞尿を浴びせられたやうな気がするらしい。あなたたちの深切は、遊びだ。享楽だ。亀だから助けたんだ。子供だからお金をやつたんだ。荒くれた漁師と病気
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