だ。一種のヤケと言つてよからう。私には何でもよくわかつてゐるのだ。私の口から言ふべき事では無いが、お前たちの宿命と私の宿命には、たいへんな階級の差がある。生れた時から、もう違つてゐるのだ。私のせゐではない。それは天から与へられたものだ。しかし、お前たちには、それがよつぽど口惜《くや》しいらしい。何のかのと言つて、私の宿命をお前たちの宿命にまで引下さうとしてゐるが、しかし、天の配剤、人事の及ばざるところさ。お前は私を竜宮へ連れて行くなどと大法螺を吹いて、私と対等の附合ひをしようとたくらんでゐるらしいが、もういい、私には何もかもよくわかつてゐるのだから、あまり悪あがきしないでさつさと海の底のお前の住居へ帰れ。なんだ、せつかく私が助けてやつたのに、また子供たちに捕まつたら何にもならぬ。お前たちこそ、人の深切を素直に受け取る法を知らぬ。」
「えへへ、」と亀は不敵に笑ひ、「せつかく助けてやつたは恐れいる。紳士は、これだから、いやさ。自分がひとに深切を施すのは、たいへんの美徳で、さうして内心いささか報恩などを期待してゐるくせに、ひとの深切には、いやもうひどい警戒で、あいつと対等の附合ひになつてはか
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