お鈴さんは、このあつさりしすぎる訪問客には呆れた様子で、
「まあ、もうお帰りになるの? こごえて死にさうになるまで、竹藪の中を捜し歩いていらして、やつとけふ逢へたくせに、優しいお見舞ひの言葉一つかけるではなし、――」
「優しい言葉だけは、ごめんだ。」とお爺さんは苦笑して、もう立ち上る。
「お照さん、いいの? おかへししても。」とお鈴さんはあわててお照さんに尋ねる。
お照さんは笑つて首肯く。
「どつちも、どつちだわね。」とお鈴さんも笑ひ出して、「それぢやあ、またどうぞいらして下さいね。」
「来ます。」とまじめに答へ、座敷から出ようとして、ふと立ちどまり、「ここは、どこだね。」
「竹藪の中です。」
「はて? 竹籔の中に、こんな妙な家があつたかしら。」
「あるんです。」と言つてお鈴さんは、お照さんと顔を見合せて微笑み、「でも、普通のひとには見えないんです。竹藪のあの入口のところで、けさのやうに雪の上に俯伏していらしたら、私たちは、いつでもここへご案内いたしますわ。」
「それは、ありがたい。」と思はずお世辞で無く言ひ、青竹の縁側に出る。
さうしてまた、お鈴さんに連れられて、もとの小綺麗
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