うれしい。」
などと、本当につまらない馬鹿げた事が、その手紙に書かれていました。男の人って、死ぬる際《きわ》まで、こんなにもったい振って意義だの何だのにこだわり、見栄《みえ》を張って嘘《うそ》をついていなければならないのかしら。
夫のお友達の方から伺《うかが》ったところに依《よ》ると、その女のひとは、夫の以前の勤め先の、神田の雑誌社の二十八歳の女記者で、私が青森に疎開していたあいだに、この家へ泊りに来たりしていたそうで、姙娠《にんしん》とか何とか、まあ、たったそれくらいの事で、革命だの何だのと大騒ぎして、そうして、死ぬなんて、私は夫をつくづく、だめな人だと思いました。
革命は、ひとが楽に生きるために行うものです。悲壮な顔の革命家を、私は信用いたしません。夫はどうしてその女のひとを、もっと公然とたのしく愛して、妻の私までたのしくなるように愛してやる事が出来なかったのでしょう。地獄の思いの恋などは、ご当人の苦しさも格別でしょうが、だいいち、はためいわくです。
気の持ち方を、軽くくるりと変えるのが真の革命で、それさえ出来たら、何のむずかしい問題もない筈です。自分の妻に対する気持一つ変
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