だ。金銭がその予言者だ! われらは神へ奉納するために自然を荒らしている物質を征服したと誇っているが、物質こそわれわれを奴隷にしたものであるということは忘れている。われらは教養や風流に名をかりて、なんという残忍非道を行なっているのであろう!
星の涙のしたたりのやさしい花よ、園に立って、日の光や露の玉をたたえて歌う蜜蜂《みつばち》に、会釈してうなずいている花よ、お前たちは、お前たちを待ち構えている恐ろしい運命を承知しているのか。夏のそよ風にあたって、そうしていられる間、いつまでも夢を見て、風に揺られて浮かれ気分で暮らすがよい。あすにも無慈悲な手が咽喉《のど》を取り巻くだろう。お前はよじ取られて手足を一つ一つ引きさかれ、お前の静かな家から連れて行ってしまわれるだろう。そのあさましの者はすてきな美人であるかもしれぬ。そして、お前の血でその女の指がまだ湿っている間は、「まあなんて美しい花だこと。」というかもしれぬ。だがね、これが親切なことだろうか。お前が、無情なやつだと承知している者の髪の中に閉じ込められたり、もしお前が人間であったらまともに見向いてくれそうにもない人のボタン穴にさされたりする
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