あしびの花
土田杏村

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)馬酔木《あしび》の花は

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 今はもう散つて了つたが、馬酔木《あしび》の花は樹の花の中でも立派なものだ。梅のさく早春から藤の散る初夏頃まで咲き続き、挿花にでもしようものなら、一箇月の余もしほれないでゐる、生気の強い灌木だ。
 馬酔木の花を見ると、大抵の人が少しさびし過ぎると考へるであらう。その色つやも大して立派だとは言ふまい。けれどもそれは馬酔木の古木が本当に咲き盛つてゐるところを見てゐないのである。一丈以上にも伸びた古木が山一面にさき続いてゐるところ、それは実際何とも言へないはでやかなもので、だれでもちよつと、この花叢を馬酔木だとは信じまい。
 馬酔木の花の美しいのは奈良である。私はこの春用事があつて幾度となく奈良へ出かけたが、一箇月の余少しの衰へをも見せないで咲き盛つてゐる馬酔木の花を見ることは、その間一つの楽しみであつた。馬酔木《あしび》の古木は春日社の一の鳥居から博物館あたりへかけての広つぱに見られる。が
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