は一人もなく、ワッショイ! ワッショイ! ワッショイ! の声を聞いては、誰しも家の内にジッとしておらるるものでない。大方は飛び出して、いつか己れもその群に立ちまじり、至極真面目な顔でいた男のワッショイ! ワッショイ! を聞くことよくあることだ。まァさ、そう馬鹿にしないで、その無邪気と赤裸々とを買ってお貰い申したいものだが……。
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 心太と白玉



 真夏真昼の炎天を、どこやらに用達しての帰るさ、路ばたの柳蔭などに荷おろして客を待つ心太《ところてん》やの姿を見る時、江戸ッ児にはそを見遁がして通ること却々《なかなか》に困難だ。
 立ちよって一[#(ト)]皿を奮発すれば冷たい水の中から幾本かを取出して、小皿に白滝を突き出し、これに酢醤油かけて箸を添えて出す。啜りこむ腹に冷たきが通りゆくを覚ゆるばかり、口熱のねばりもサラリと拭い去られて、心地限りなく清々しい。
 江戸ッ児はその刹那の清々しさを買うに、決して懐銭を読む悠長をもたぬのである。
 かれらはまた同じ心で夕暮の散歩に、氷屋が店なる「白玉」のビラを横目に見て通りあえぬ。紅白の美しい寒晒粉を茹上げた玉幾つ、これに氷を交えて
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