ら己が聴かねえと、倶利迦羅紋紋の兄哥《あにい》が力んでいた。
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 花菖蒲



 菖蒲は堀切と蒲田にその名を恣にし、花に往き来した向島の堤をまたぞろ歩むもおかしき心地がする。
 堀切も吉野園、小高園など、今も花の種類はかなりにあるが、花より団子の喰う物なければ治まらぬ都人士の、なけなしの懐を気にしながらも、次第に種々な贅をいうので、粗末なものを値ばかり高めて売りつけ、客を馬鹿にした振舞尠からず、したがって江戸ッ児は少々二の足を踏むようになり、つまらねえやと鼻もひっかけなくなった連中すらある。
 こうなっては折角の花菖蒲も散々で、人は園内の切花を高い銭出して買うのが嫌さに、帰り路の小流れのほとり、百姓の児どもなぞが一把三銭の五銭のと客を見て吹ッかけるやつを、また更に値切りたおして、隣近所へまでのお土産、これで留守して貰った返礼をもすますようになって江戸以来の名所も台なしにされた形である。
 蒲田にはそうした情なさはないが、ここはまた横浜に近いだけ外人を目あてに好みも自らその方に傾けば、これとて江戸ッ児には興のぼらず、一層その位なら西洋草花を賞美した方がとは、満更皮肉な言い
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