江戸ッ児のシンボルである。
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釣りと網
寒鮒に始まって鯊釣り、鱚釣り、鯔《ぼら》、海津など、釣りと網とは花に次いでの江戸ッ児の遊楽だ。
鮒は本所深川の池、堀、別しては木場辺の浮き材木の上から釣るのなぞが獲物もよく、釣堀は先ずその次である。但し堀江、猫実辺への遠出をすればこの上はないが、さるは充分に閑暇を得ての上のことだ。
鯊釣りは彼岸を待っての垂綸《たれいと》で、東京湾の鱚釣りは脚立に限る。鯔は釣りでも網でも面白く、海津は釣るに最もよい。
海津は「ケエヅ」とよんでいただかねば江戸ッ児には承知が出来ず、何んだ黒鯛の子かァ……などは少々お話にならぬ筋だ。
凡そ釣りというもの、綸《いと》を垂れて魚のかかるを待っているだけのことで、岡目には如何にも馬鹿らしいことだろうが、本人に至ってはなかなか以て懸命の苦心、浮標《うき》をあてにするようだと誰しも言われたくないので、その微動だも見のがすまいとの注意は、呆然たるようでも精神の充実していること驚くばかりだ。
されば釣り好きになると、目のまわるほどな忙しい中でも、他の綸を垂るるを息を殺して凝視し、自分までが力瘤を入
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