四時客の絶えぬのはこの竹屋の渡しで、花の眺めもここからが一入《ひとしお》だ。
されど趣あるは白髭の渡しもこれに譲らず、河鹿など聞こうとには汐入りの渡し最もよかろうと思う。
千住から荒川に入っては豊島のわたしを彼方へ王子に赴くもまた趣あり。船遊山とはことかわるが、趣味の江戸ッ児にはこの渡し船の乗りあいにも興がりて、永代から千住までの六大橋に近い所でも、態々まわり路して渡し船に志すが尠くない。
然ればこそ隅田川上下の流れを横切って十四の箇所を徂徠している数々の渡し船も、それぞれに乗る人の絶えないので船夫の腮《あご》も干あがらぬのである。
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汐干狩
三月桃の節句に入っての大潮を見て、大伝馬、小伝馬、荷たりも出れば屋根船も出で、江戸ッ児の汐干狩は賑やかなこと賑やかなことこの上なく、紅白の幔幕旗幟のたぐいをまでたてて、船では三味線幾挺かの連れ弾きにザザンザ騒ぎ、微醺《びくん》の顔にほんのりと桜色を見せて、若い女の思い切り高々に掲げた裳から、白い脛《すね》惜気もなくあらわにして、羞かしいなぞ怯れてはいず、江戸ッ児は女でもさっぱりしたもの、時に或はむしがれいなぞ踏まえ
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